Then & Now生デの今昔

学びシリーズ:03
教えるのではなく、伝える事を大事に
~フラッフィー・渋谷の小さなパン教室~

1992年度専攻科卒業/奥村香代

渋谷駅から歩いて10分ほど離れた場所で、パン屋フラッフィーを始めてもう少しで16年が経ちます。そのうちの約半分、8年ほど前からパン教室も運営しています。

実は最初からパン屋を始めたかったわけではありません。20代の前半に、何かをしたいと思いながらも何も見つからず。ただ、料理をする事が好きだったので、天然酵母のパン教室に通うか、精進料理の教室に通うか迷い、なんとなくパン教室を選んだ事が始まりです。天然酵母というものがある事も知らずに通い始めた教室、それでもパン生地を触った時、そして焼きあがったパンを試食した時の衝撃は今でも忘れられません。

その後、パン作りに没頭し、仕事をしながら毎日パンを焼く生活でした。縁があり、次はパン教室で働く事になり、さらに私はパンの世界に入って行きました。

私はいろいろな事に興味を持っても続かない、飽きてしまって放り出してしまう性格なのに、なぜかパン作りだけは放り出す事はありませんでした。パンを仕事にした今でも、料理やパン作り以外に興味が持てるものがなく、それ以外の事は相変わらず放り出してしまいます。パン作りを始めて10年以上経ち、ここまで続くのだから、この先も続けられるのではないかと思い、パン屋をオープンしました。

パン教室を始めたきっかけ、それは10年ほど前に見つかった私の病。ステージ4の乳がんと診断され、治療を行ないました。そして、一連の治療が終わった時、主治医に言われた再発率の高さと再発したら完治はできないという言葉。人生で初めて意識した自分の死を目の当たりにして最初に思ったのは…。いつもご来店いただいているお客様の顔が浮かび、「誰かにパンのレシピを渡さないと、もう誰もこのパン食べられなくなっちゃう」ということでした。他にもっと何か別の事を思わなかったのかと今では思うのですが…。ちなみに昨年無事にすべての治療を終え、今は普通の生活を送っています。

フラッフィー は作業空間、販売空間すべてを合わせて3坪弱の狭さです。私自身、パン屋を大きく営業するというよりも、ひとりで焼き切れる量を販売する営業がモットーと思っているので、従業員は販売スタッフのみです。従業員を雇って、パンを焼いてもらうことも考えましたが、なんだか気がのりません。ふと「あっ、教室をやっちゃおう!」まぁ、こんな感じで始めたパン教室です。

ただパン教室をやったからと言って、もし私が死んでしまった後に生徒さんがパン屋になって、私のお客さまにパンを販売するなんて、あり得ない事だとあとで気づきました。

自分の店を開く前、某パン教室で働いていたのですが、生徒さんへの対応などに悩み、退職した経緯があります。今度もまた悩んでしまうのではないかと思いましたが、人間あとがない状況になると、やってしまってから考えようと前向きになれるものです。

結果、今では教室での生徒さんとの時間はとてもとても楽しく、こんなに楽しいなんて!とびっくりしています。生徒さんの中には、パン作りを自宅でも楽しむ人、月に1度だけのレッスンを楽しみに来てくれる人。お子さんのためにパン作りに挑戦するお父さん、共通の趣味として参加されるご夫婦など、色々です。中にはもう7年ほど通っていただいている生徒さんもいて、お顔を見ないと私が寂しくなってしまいます。パン教室は、皆さんが笑顔で楽しんでいるのが実感でき、私にとって幸せな時間です。

◉【特別レッスン】手前がレモン香るイチジクパン、奥は塩味タルト2種
◉【レッスン4】ベーグル4種、カンパーニュ、コーヒーロール2種

教える事が上手だと褒めていただく事があるのですが、その理由はとても簡単。私自身、本当にダメな人、頭の良い人ではないのです。勉強はとても苦手です。そんな私なので、教える場合も流暢に教える事はできません。私の頭で理解できている事を、これをどう相手に伝えるか、どの様に伝わるか。この伝達方法、これのみ重視です。結果、生徒さんの目線になって、一緒に手を動かすという、一番簡単な方法にたどり着きました。だから、わかりやすいのではないかなと思います。

学生の頃から、みんなは理解できている事が何をどうしてもわからない。ノートとペンを持って書いてみても、整理も理解もできない。そんな時はどうしたらいいか。私がしてきたのは、まず手を動かして、何度も動かして、自分の頭の中のノートに刻む。頭の中のノートは誰にも見せられないので、それを説明する時は同じ目線で一緒に行動する。そうやって相手に理解をしてもらえるまで動き続ける。

そういえば、専攻科の卒業制作の講評で泉先生に「何かわからないけど、動いたね」って言われた記憶があります。うまく進まない作品の制作に七転八倒していた私への最高の褒め言葉だと勝手に思っています。あの時は、私の頭の中のノート、伝達力が全く足りなかったんだと。今ならもう少し上手にプレゼン出来るかもしれません。

◉FLUffY(フラッフィー)天然酵母・北海道産小麦粉を使ったパン
◉左から奥村香代さん、販売の茉梨絵さん(映像卒)と田村会長

【移転のお知らせ】

渋谷の鶯谷町から、東松原駅前に引越します。詳しくはhttp://www.happyfluffy.netをご覧ください。